2011年2月24日木曜日

バブルの鍵握る「熱銭」 抑制策で崩壊阻止狙う

 【日曜経済講座】

 ◆実需の裏付けない投資

 人民元の切り上げを防ぐため、中国の通貨当局は巨額のドルを買い上げて過剰な資金を国内に垂れ流し、不動産や株式市場を沸騰させている。1980年代後半の日本のバブル経済を想起させる。果たして中国は日本のようなバブル崩壊を避けられるだろうか。

 万博開催まであとわずかの上海。高層ビル群がひしめく浦東地区で、さらに高層ビルの建築ラッシュが続いている。完成したオフィスビルがやっとの思いで入居者を見つける一方、10年以上前に建ったビルは空室だらけだ。なのにこの2月時点で1年前に比べて北京の不動産平均価格は60%、上海は48%上がった。バブル期絶頂期の日本の3大都市圏を彷彿(ほうふつ)させる。

 実需の裏付けがないのに投資が行われ、供給が増える。かつては日本もそうだった。その要因は、だぶつくカネである。

 日本では金融機関や一般法人が時価発行増資で1件当たり数千億円単位、80年代後半で総額約70兆円もの低コスト資金を調達した。これらの余剰資金が預け入れられる銀行は不動産関連に53兆円を融資した。

 中国は08年9月の「リーマン?ショック」後、共産党中央が大号令を出し、銀行は融資を大幅に増やしてきた。この1?3月期の融資増加分のうち、約3分の1が不動産関連である。日本でも、86年から90年までの銀行融資増加分の約3分の1が不動産業界、不動産金融などのノンバンクと建設業界向けだった。

 ◆急騰する不動産価格

 中国の場合、国内の銀行融資だけではない。国外から入ってくるホットマネー「熱銭」が、銀行融資以上の威力を持っている。海外に多くの金融拠点を持つ大手国有企業は、熱銭を駆使しやすい。

 海運大手の中国遠洋運輸集団、中国軍需大手の中国兵器装備集団、石油大手の中国石油化工(シノペック)をはじめ国有企業78社が不動産部門に進出し、高値で土地使用権を落札し北京などの不動産価格急騰の先兵になった。

 大きく分けて熱銭には、4つのルートがある。

 まず貿易の虚偽申告である。一般には輸入額を実際より低くし、輸出額を高くして、海外で調達した外貨を銀行に持ち込んで人民元に替えて不動産投資する。偽契約を作成し、輸出を不正申告する方法もある。

 2番目は外国からの直接投資や、証券投資、貿易信用枠などの貸し付けの名目をとる。

 3つ目は中国系の闇金融機関「地下銀行」ルートを利用する。つまり、ドルを地下銀行の海外口座に入金し、地下銀行が相当額の人民元から手数料を引いて、海外投資者の中国国内人民元口座に振り込む。逆の流れも可能で、地下銀行を使えば投資収益を海外で受け取ることができる。

 第4のルートは海外在住の個人がドルなどの外貨を中国国内の親戚や知人の国内口座に送金し、親戚(しんせき)知人が人民元に両替して不動産や株式に投資する。この3番目と4番目の方式は「飛銭」と呼ばれるが、言い得て妙である。熱銭も飛銭も中国人か中国系企業でしかできない芸当だ。

 熱銭に公式統計はないものの、類推はできる。外貨準備の増加分から貿易収支黒字分を差し引けばよい。貿易収支は09年で1961億ドルの黒字だが、中国の外貨準備は前年比でみると、4591億ドル増えている。つまり、09年は貿易収支以外におよそ2630億ドルもの外貨が流入している。今年に入ると、貿易収支は輸入急増のために3月には赤字転落したほどだが、1?3月で外貨準備は約480億ドル増えている。グラフからわかる通り、熱銭に連動して不動産価格が急騰している。

 ◆外部へ流出しづらい資本

 熱銭主導の中国式バブル経済に崩壊は起きるのだろうか。資本流入の方は熱銭を含めて比較的容易に国境を越せる。ところが、持ち出しは地下銀行を利用する以外、かなり難しい。地下銀行も非合法だけに、一挙に大量の資本逃避を受け入れるほどの容量はない。

 つまり、中国の場合、資本の大量逃避は起きにくい。不動産価格が下がり始めたのを機にパニックが起き、為替相場も崩落状態になったのが1997年から翌年にかけてのアジア通貨危機である。

 あとは金融政策と政府のマクロ政策次第である。日本の場合、日銀が急激な金融引き締め策をとり、続いて政府が融資規制と地価税の導入で追い打ちをかけて暴落させた。

 中国は熱銭を国内に閉じこめたうえで、当局がなだらかな抑制策で軟着陸を試みるだろう。日本型バブル崩壊を「阻止できる」と北京当局は踏んでいるに違いない。(編集委員?田村秀男)

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引用元:ローズ(Rose) 専門サイト

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